(ムンバイ→バンコック移動日)


キャセイパシフィックのバンコック経由香港行きは1時間遅れて、11時にバンコックの国際空港に着いた。新しい空港はトランジットでしか使ったことがないから、降りるのは初めてだ。飛行機に乗ると映画を見ないと気が治まらない私は、新作映画をいくつか見た後、Just for Laughという大好きなカナダのドッキリ番組を見ていたのだけれど、見終えないうちに飛行機は着陸態勢に入ってしまった。

空港は清潔で、入国もスムーズに行った。タイの地球の歩き方は持ってきていなかったので、さてどうやって市内に出ようと迷っていると女性が近づいてきてタクシーに連れて行ってくれた。1人300バーツでホテルまで行くと言われて、相場よりも高いことが気になったけれども、一刻も早く市内に出たかった渡したちはその値段で交渉を成立させた。タクシーに乗って町並みを見ていると、バンコックがあまりにも綺麗なことに驚いた。都会的な町並みは、私が覚えていたバンコックとまるで違った。でも、よく考えれば私が前にバンコック市内を訪れたのは10年ほど前なのだ。変わらない方がおかしい。

街中には蛍光ピンクやオレンジの鮮やかなタクシーが入り乱れて、行儀よく走っている。我さきに開いたスペースに割り込もうとし、絶えずクラクションを鳴らしまくるインドのドライバーとは大違いだ。インドに慣れてしまった今は、交通ルールがきちんと守られていて、隣のリクシャーからヤギが飛び出してきたり、牛が車の行く手を阻まないというだけで何か新鮮な気がしてしまった。

バックパッカーの聖地であるカオサンにある有名な日本人宿、さくらゲストハウスに向かってもらう。ゲストハウスの場所と電話番号をメモし忘れていたけれど、携帯からグーグル検索をして、すぐに運転手に伝えられた。バンコックではiモードがストレスなく通じる。ムンバイでも、一瞬だけ通じたけれども、すぐに圏外になってしまったため、問題なくメールの送受信ができることが気持ち良い。

さくらゲストハウスは前の日本人オーナーからタイ人にオーナーが変わってから汚くなったと聞いていたけれども、予想していたよりはましで、シャワーもトイレも使えそうだった。何より、宿泊客は1泊ごとに2時間併設の漫画喫茶を使用できるというのが、活字に飢えていた私には嬉しかった。ドミトリーはじめじめしていて、クーラーが効きすぎていて(クーラーのリモコンがなくて、宿泊客が調整できないようになっていた)、おまけにライトが暗すぎた。独房のようなスペースとダニのいそうな二段ベッドには気がめいったけれども、他に良さそうな宿も知らないのでそこに滞在することに決めた。幸い、そこに滞在している日本人は皆人の良さそうな人ばかりだった。化粧をきちんとした今時の女の子が1人いるなぁと思ったら同じ大学の同じ学部に通う後輩で、共通の友人もいた。これで、同じ学部の人に偶然会うのは、イスラエルに次いで2回目だ。

ちょっと遅めのお昼は、ゲストハウスのやっている日本食屋さんで食べた。私は80バーツの天丼を、ゆみは天津飯を注文する。天丼はエビ天2本の他は、天かすしかのっていなかったけれども、揚げ方がべったりしていなくて、日本の天丼にとても近かった。白いご飯やタレも美味しくて感動的だった。

そのあと、カオサン通りを歩いて、美味しそうな屋台や激安の変なメッセージのかいてあるTシャツを売る露店をぶらぶら見た。



屋台は今までのどの国よりもバラエティにとんでいる。タイ風焼きそばパッタイをその場でつくってくれる屋台、マンゴーと餅米のデザート、フルーツジュース、フライドチキン、食用の虫、カットフルーツ(ジャックフルーツを大きなナイフでザクザクと切って売っているところもあれば、大きなザボンの皮をはいで売っているところもあれば、グアバをビニル袋に入れてトウガラシと砂糖をかけて売っているところもある。フルーツの売り方だけでも何通りもあるのが楽しい)、とうもろこしやお芋、さつま揚げのようなもの、日本風とかかれたクレープ、タピオカ入りのミルクティー…お腹をいっぱいにしてしまったことが悔やまれるほどどれもこれも魅力的だった。カオサン名物の変なTシャツは、レゴ風の夫婦の結婚式の様子の下にゲームオーバーと書かれていたり、日本の洗濯洗剤やスターバックス、ハイネケンなどのコピーやパロディがあった。中にはセクシャルなメッセージや、糞と大きく書かれたものがあって、なかなか着るのに勇気が必要そうだった。

マッサージや美容院の料金が安いと聞いていたので、値段を何軒かで聞いてみた。相場が分かったところで、ホテルに近い美容院に入って、エクステンションの値段交渉をする。トリートメントとシャンプーとエクステンションで約6000円まで値切って、そこで施術を受けることにする。日本では高いのと手入れが面倒なイメージがあって挑戦したことのなかったエクステンションだったけれども、海外では気持ちが開放的になるのか、何か新しいことにチャレンジしたくなってしまったのだ。現地人のお姉さんが茶色と黒の2色の毛束を交互に私の髪につけてくれて、約2時間で私の髪の毛は地毛よりも30センチほど伸びた。初めて見る鏡の中のスーパーロングヘアの私は、新鮮で似合うか似会わないかは別にして、料金分の価値はあると思った。髪の毛分、少し頭が重くなり、少し落ち着かない気もしたけれど、嫌になったら取ればいい。

その後宿に戻ったらゆみが行方不明になっていたので、ゆみを探してカオサン通りを3往復ほどしたけれど見つからず、屋台で適当にスナックを買って食べて、マッサージに行った。マッサージは2時間でも1000円ほどで、日本の1分100円の相場と比べると激安だ。マッサージから帰るとゆみは宿にいる他の日本人の人たちと話していた。

ちょっと体調がすぐれなかった私は、人と話す気があまり起きなくて、漫画喫茶でゴロゴロとした後、夜中の12時くらいにお腹が減って、ゆみと、エジプトのダハブでも会って、さくらで再会したタカシさんと一緒に屋台でグリーンカレーを食べた。ムンバイで食べたカシューナッツで口の中が数か所切れていて、香辛料がしみたけれども、野菜がいっぱい入ったカレーは美味しかった。もう真夜中だというのに、バックパッカーの聖地カオサンの夜は遅い。バケツのように大きなジョッキにたっぷり入ったフローズンカクテルやビールを片手にいつまでも話している欧米人パッカーをぼおっと眺めたり、犬と遊ぶ細身の現地の子供を見ていたりするのは飽きなかった。それに、夜中にものを食べるというのは、禁忌をおかしているようでそれだけで楽しい。

バンコック1日目の夜はこうしてゆっくりとふけていった。